徳沢の娘 前穂高岳に現れる美しき雪形

2021年の5月は西糸屋山荘に逗留して動植物の撮影に専念していたが、5月24日は徳沢まで出かけた。ニリンソウが開花しているという情報があったからだが、行ってみると「徳沢の娘」の雪形もピークを迎えていた。

この雪形は山と渓谷2019年3月号に掲載された私のエッセイに由来する。ある年の6月、徳沢のテントの傍らで前穂高と明神岳を眺めていた時、その鞍部付近に長い黒髪の若い女性に似た雪形を見つけたという内容だ。例年は6月に入ってから見ごろになるが、2021年は季節の推移が早く、また5月21日に大雨が降ったせいもあり、この日の見ごろになったと思われる。

ところで一般に雪形というと古来からの伝承に由来するものが多いが、最近は個人が新しく見いだしたものも含まれている。例えば田淵行男の北アルプス中岳の「舞姫」だ。私が見つけた「徳沢の娘」もそれと同じ部類だ。

話を5月24日に戻すと、徳沢の娘を写していた時、近くにいた家族連れが子供に「徳沢の娘」を説明している声が聞こえてきた。とても驚いたが、聞いてみるとヤマケイを見て知っているとのことだった。もしかすると、「徳沢の娘」も少しずつ市民権を得だしたのかなと思っている。

徳沢から望む「徳沢の娘」の雪形(2021年5月24日)









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