上高地の針葉樹

上高地の森を構成する針葉樹は、カラマツ(マツ科)、ウラジロモミ(マツ科)、コメツガ(マツ科)、チョウセンゴヨウ(マツ科)、トウヒ(マツ科)、シラビソ(マツ科)、イチイ(イチイ科)、サワラ(ヒノキ科)などである。

カラマツは針葉樹としては珍しい落葉性。日本での天然木の分布は本州の一部に限られ、長野県を中心に東北の蔵王や富士山などの山岳地帯に局地的に自生している。上高地には天然木が広く自生しているが、バスターミナル付近から小梨平にかけては大正時代に植林されたものも混在している。カラマツの落葉は分解されにくいため、小梨平キャンプ場ではカラマツの落葉が厚く堆積した場所があるが、そうした場所にテントを張るとふわふわして寝心地がいい。なお、蝶ヶ岳稜線には高さ50cmほどのハイマツのように地面を覆うカラマツが自生している。

ウラジロモミ、シラビソ、コメツガは上高地の自然研究路沿いでよく目にする針葉樹。同所的に自生するが、ウラジロモミとシラビソの葉は長さ2cmほどだが、コメツガの葉は1.5 cmほどと短く、葉の長さの違いでコメツガとの区別はある程度つく。ウラジロモミとシラビソは同じモミ属で似ているが、枝の部分に着目すると、樹皮に独特のしわがあるのがウラジロモミ、ないのがシラビソで、この点である程度の区別はできる。なお、コメツガは蝶ヶ岳稜線にも高さ1mほどの矮性の株が自生している。

トウヒは上高地の平野部には少ないが、岳沢や蝶ヶ岳などの登路で見かける。葉は長さ2cmほど。ウラジロモミの葉に少し似るが、トウヒの葉の基部には葉枕(ようちん)があるので見分けることができる。

チョウセンゴヨウはハイマツと同じ5葉性のマツで、針状の葉が5個ずつ束生する。上高地では所々で見かけ、決して珍しくはない。種子はハイマツよりも大きく長さ1.5 cmほどもあり、ハイマツの種子が高山帯でホシガラスなどによって貯食、散布されるのと同様に、本種もリスやネズミなどの小動物によって種子散布が行われている。ちなみに平野部のアカマツやクロマツは2葉性である。

イチイは自然研究路沿いで時折見かける針葉樹。葉は長さ2cmほどで長さだけならウラジロモミに似るが、先端が鋭く尖ることや、葉裏の気孔線が目立たないことで区別できる。なお、葉先は尖っていかにも痛そうだが、実際は握っても痛くない。成長が遅いために緻密な木質で、彫刻材として重用されている。サワラは建築材として多用されるヒノキの仲間。ヒノキとは葉裏の気孔帯の形で区別できる。ヒノキはY字型なのに対し、サワラはX字型である。上高地ではヒノキは見られず、サワラが天然木として自生している。

以上、上高地の針葉樹について概説した。針葉樹は似たものが多く、その場で同定できない場合は、葉や葉裏などの写真を撮って図鑑などで調べると良いだろう。 

上高地の針葉樹
ウラジロモミ(上高地)

                                                                                  © 昆野安彦 山の博物記