青葉山のウスバシロチョウ

青葉山(仙台市)では 85種の蝶を観察しているが、その中には数度しか見たことがない珍しい蝶も含まれている。思い出すままに挙げてみると、キバネセセリ、カラスシジミ、スジボソヤマキチョウなどである。

珍しいという点ではアゲハチョウ科のウスバシロチョウも珍しい。青葉山で私が知っている生息地はごく小面積の一ヶ所だけ。長年その周辺をくまなく調査してきたが、他には見つけていない。ところが2018年5月、そこから1キロほど離れた場所で♂が飛んでいるのを見つけた。この時は我が目を疑ったが、まちがいなく本種だった。てっきり私の知る場所から飛来したのだろうと思ったが、翌日同じ場所を訪れてみると今度は数個体のオスが飛んでおり、ここで発生したことは間違いなかった。恐らく、前年この場所に偶然飛来したメスが林床に産卵し、それから孵った幼虫がこの場所で羽化したものと思われた。実際、林床には食草のムラサキケマンが自生しており、生息環境としては申し分なかった。

そこは東北大学の青葉山キャンパスから歩いて僅か5分の場所。1週間ほどは毎日この蝶の様子を見に行ったが、ウスバシロチョウは大好きな蝶なので、普段の生活の中でこんなに簡単にこの蝶に会えるのは信じられない思いだった。ちなみに同時に見た最大個体数は5だった。

ただ、一つ気になる点があった。それは飛んでいるのが全部オスということだった。オスだけでは子孫を残すことができない。せっかく見つけた新たな生息地だったが、この場所での発生は今年限りだろうと思った。案の定、翌年以降、この場所では未発生である。

ここにアップした動画は2018年5月21日に撮影したものである。この年限りの発生になるだろうと考えた私は、生息の証拠映像を撮っておくことにしたのである。この場所がどこかは、青葉山に詳しい人ならすぐ分かるだろうと思う。

                                                     © 昆野安彦 山の博物記