この写真は北アルプスの蝶ヶ岳からの撮影で、山は右から槍ヶ岳、大喰岳、中岳、南岳、北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳、前穂高岳だ。南北に鋭角な山容が連なる、北アルプスの山岳美を代表する景観と言えよう。ここでは、この槍・穂高連峰がどのような過程を経て現在の姿になったかを解説してみたい。
槍・穂高連峰の地質はおもに溶結凝灰岩という硬い岩石で構成されているが、この岩石は今から約175万年前に起きたカルデラ火山の大噴火の際にカルデラ内に堆積した火山灰に由来する。噴火直後にカルデラ内に堆積した火山灰は高温により再び融解し、その後粒子どうしが溶結する過程を経て緻密で硬い溶結凝灰岩ができたのである。
当時の槍・穂高の標高は今よりずっと低かったが、火山活動が終息すると約150万年前から起きた地球規模のプレート運動によって槍・穂高の山体の隆起が始まった。その過程でカルデラ内の溶結凝灰岩以外の岩石や砂礫は風化作用によって削られたが、硬い溶結凝灰岩はあまり削られずに残り、現在の3千メートル級の原型ができたのである。さらに約6万年前と約2万年前の氷期に谷筋に発達した氷河の氷蝕作用によって山体が削られ、鋭い稜線の槍・穂高連峰が形成されたのである。
以上が槍・穂高連峰の成り立ちの概略である。改めてここに掲げた写真を見ると、槍・穂高の山並みには悠久の地史が刻み込まれていることが分かるだろう。
蝶ヶ岳からの槍・穂高連峰 |
© 昆野安彦 山の博物記