上高地は標高約1500m~1600mで亜高山帯と低山帯(山地帯)の境界に位置している。このため、上高地にはこれら両帯に生息する山地性の蝶が60種ほど生息している。ここでは季節の順に上高地で見られる主な蝶を紹介する。
冬開け~春:4月下旬の上高地の開山式の頃は、晴れた日にはキベリタテハ、ヒオドシチョウ、クジャクチョウ、コヒオドシ、シータテハ、アカタテハなどの成虫で冬越しするタテハチョウ科の仲間が日当たりのいい場所で陽を浴びている姿が見られる。5月半ばになると、高山蝶のクモマツマキチョウが梓川の岸辺で見られるようになり、そのほか、初春に羽化するスジグロシロチョウやルリシジミの姿も見られる。
初夏:6月になって暖かくなると、蛹で冬を越したミヤマカラスアゲハやカラスアゲハの大型のアゲハチョウが林道を飛ぶようになり、徳沢の草原では私が「徳沢の娘」と呼ぶウスバシロチョウが優雅に舞い始める。そのほか、サカハチチョウの春型、ヤマキマダラヒカゲ、コチャバネセセリ、ベニシジミ、モンキチョウなども見られる。
夏(7月~8月):7月半ばになると本格的な蝶のシーズンを迎える。クガイソウ、ヨツバヒヨドリなどの花にミドリヒョウモン、ウラギンヒョウモン、ギンボシヒョウモン、ヒメシジミ、カラスシジミ、コヒョウモン、ヘリグロチャバネセセリ、オオチャバネセセリ、ヒメキマダラセセリなどが訪れる。笹原ではササ類を食草とするクロヒカゲ、ヒカゲチョウ、ヤマキマダラヒカゲ、ヒメキマダラヒカゲなどが見られ、林道の水たまりや獣糞ではコムラサキや時には高山蝶のオオイチモンジが見られる。また、徳沢から登路のある蝶ヶ岳の稜線では高山蝶のタカネヒカゲやミヤマモンキチョウが羽化を始めている。蝶愛好家に人気の高いゼフィルスと呼ばれるミドリシジミ類に関しては、タニガワハンノキを寄主とするミドリシジミやミズナラを寄主とするエゾミドリシジミなどが生息している。
盛夏~晩夏(8月~9月):河童橋から正面に見える岳沢のお花畑では8月に入るとクモマベニヒカゲ、ベニヒカゲ、タカネキマダラセセリの3種の高山蝶が姿を現す。そのほか、日本列島を旅する蝶として有名なアサギマダラも夏になると上高地に現れ、梓川沿いのヨツバヒヨドリの花を訪れている姿を観察できる。
以上、上高地の蝶について概略を紹介した。いずれの蝶も陽が射している時に活動するので、蝶の観察が目的なら天気の良い日を選んで訪れると良いだろう。
上高地に多い山地性のコヒョウモン |
© 昆野安彦 山の博物記