上高地は標高約1500m~1600mにあり、植物の垂直区分では亜高山帯と低山帯(山地帯)の境界に位置する。そのため、植物もこれら両方のものが混ざり合って見られる。また地形的には梓川の流れを中心に平坦な平野部が広がるが、その平野部には梓川の岸辺、湿原、森などの多様な植生環境が見られる。
梓川岸辺の植生はケショウヤナギ、オオバヤナギ、ドロノキなどのヤナギ類を主体とする河畔林である。また岸辺の砂地にはミヤマハタザオ、イワハタザオ、カワラナデシコなど、河原の砂地に適応した植物が見られる。河畔林の典型的な例は河童橋周辺の梓川の岸辺に見ることができる。
岸辺から少し離れた所、すなわち自然研究路のある辺りには上高地の森が広がる。この森を構成する樹種は、ハルニレ、カラマツ、ウラジロモミ、コメツガ、サワグルミ、イチイ、ミヤマザクラなどである。林床にはシナノザサの群落が優占しているが、笹のない場所ではニリンソウ、シロバナノエンレイソウ、サンカヨウ、エゾムラサキ、ベニバナイチヤクソウ、ヤグルマソウ、クサボタンなどの野草が季節を追って可憐な花を咲かせる。
田代湿原やウエストン園地などの湿地には、タニガワハンノキ、オノエヤナギ、イヌコリヤナギ、レンゲツツジなどが見られ、湿原にはニッコウキスゲ、バイケイソウ、サギスゲ、アブラガヤなどの草本が見られる。
上高地の森より標高が高い場所が亜高山帯~高山帯である。たとえば河童橋から正面に見える岳沢で、上高地からの日帰りハイキングコースとして訪れる人が多い。岳沢は標高がおよそ2,000m~2,300mで、シナノキンバイ、ハクサンフウロなどの亜高山性の高茎草本がお花畑を形成しているが、樹木ではダケカンバ、シラビソ、ミネザクラなどを見ることができる。
岳沢より上部の岩稜帯は穂高連峰の高山帯で、チングルマ、ミネズオウ、トウヤクリンドウ、コケモモ、イワウメなどの高山植物が見られ、樹木としては樹高の低いハイマツが風衝地を広く覆っている。
© 昆野安彦 山の博物記