ダイセツタカネフキバッタ

大雪山を代表するバッタ目昆虫(バッタ類)である。体長はオスが12ミリ、メスが20ミリほどで、メスの方がかなり大きい。国内では北海道のみに分布し、大雪山以外では道北と道東の高山に生息し、利尻山にも生息している。国外ではロシア、中国東北部、サハリンに分布しており、氷河期に大陸から渡ってきた氷期の遺存種である。


普通、バッタといえば翅を持ち、短い距離なら飛ぶことができるが、ダイセツタカネフキバッタは成虫でも翅が全くない。翅のない腹部が「にょっきり」出ている姿は少しグロテスクだが、羽根がないことを除けば全体の雰囲気は田んぼにいるイナゴによく似ている。ダイセツタカネフキバッタが属すフキバッタ属は我が国には本種のほかにサッポロフキバッタ、ミヤマフキバッタ、アオフキバッタなど数種が知られるが、いずれも翅がないか、あっても短く、全く飛べないことが共通した特徴である。

フキバッタ属の翅が短い理由としては、このグループの生活圏が主として森林の樹上や地表にあり、草原に生息するほかのバッタ類に比べて必ずしも飛ぶことが繁殖行動に必要ではないことが考えられる。ダイセツタカネフキバッタの生息地は森林とは無縁の高山帯だが、本種が好んで食べる植物がイネ科ではなくキク科のナガバキタアザミやツツジ科のクロマメノキなどの双子葉植物であることは、本来は森林性のバッタであることを物語っている。

本種は年1回の発生で、越冬態は卵。6月に幼虫が孵化し、8月中旬頃成虫が現れる。大雪山では8月中旬という最も遅い時期に羽化する昆虫なので、本種が新種として見つかったのは比較的最近の1970年代のことである。幼虫は褐色で目立たないが、成虫になると鮮やかな緑色に変身する。大雪山のほか、利尻岳、暑寒別岳、芦別岳、斜里岳、羅臼岳にも生息している。

YouTubeにアップした動画ではチシマニンジンの葉を食べている姿を紹介している。このバッタはほかにもいろいろな植物を食べるので、その点を追求したら面白い研究ができるだろうと思う。








                                                                                   © 昆野安彦 山の博物記