上高地の哺乳類

上高地でこれまでに記録されている哺乳類は、ニホンカモシカ、ニホンザル、ツキノワグマ、ニホンアナグマ、ホンドタヌキ、ニホンリス、ヤマネ、モモンガ、ニホンノウサギ、ニホンジカ、ヒミズ、アカネズミ、ヒメネズミ、オコジョ、ホンドギツネなどである。

これらの動物の多くは夜行性で警戒心が強く、人をあまり恐れないニホンザルをのぞくと、一般の方が上高地で哺乳類を目にする機会は少ないだろう。たとえばニホンカモシカは上高地にはたくさんいるだろうと思う方がいるかもしれないが、実際はかなり稀な動物で、私はこれまで2回しか会っていない。これなら私の住む仙台の青葉山の方が出会った回数だけならよほど多い。

ニホンザルは1980年代は河童橋~徳沢間で見ることは稀だったが、現在は日中に普通に見かけるようになった。この理由はよく分からないが、人に対する警戒心が薄れたことや、餌となる植物の多い上高地の良さを彼らが徐々に学習し、上高地を生涯のテリトリーとして認識した結果ではないかと思っている。

ニホンノウサギは小梨平、ニホンアナグマは小梨平と明神、ニホンジカとホンドギツネは上高地浄化センター付近で観察している。上高地浄化センター付近は観光客がほとんどいないので、ニホンジカやホンドギツネのような人目につきやすく、またやや大型の哺乳類にとっては居心地のいい場所なのかもしれない。オコジョは小梨平キャンプ場のバンガローで見かけたことがあるが、個体数は少ないようだ。

モグラの仲間のヒミズは夜行性なので生きている姿を見たことはないが、死体は時々見かける。ヒミズには嫌な臭いがあるため、仮にキツネに噛まれて死んでも、キツネは食べずにそのまま放置するそうで、遊歩道などで死体が見つかるのはそのためと思われる。そのほか、ヤマネやモモンガなどはいずれも夜行性で、一般の方が観察する機会は少ないだろう。

ツキノワグマは本来夜行性の動物だが、上高地では日中の目撃例も多い。2020年8月に小梨平キャンプ場でテントで就寝中の女性が襲われる事故があったが、以後、同キャンプ場ではゴミと食料管理の徹底、笹刈りによるクマの隠れ場所の除去、許可された場所以外でのバーベキュー禁止などの対策をとり、2021年はクマによる事故は起きなかった。私はいつも熊鈴を鳴らしながら行動している。熊鈴がクマ除けに絶対に有効とは言い切れないが、クマにこちらの存在を教えてできるだけ危険を回避しようとするなら熊鈴を携行した方が良いと思う。

上高地のニホンアナグマ

                                                                                     © 昆野安彦 山の博物記