上高地で風景写真を撮る時に梓川の流れを前景に入れることがある。撮影時はあまり気づかないが、出来上がった写真を見ると思いのほか水の色が青みを帯びている。とくに晴天時の撮影ではなおさらだ。水の色は一般に無色透明と言われることが多いが、なぜ梓川の水の流れは青く見えるのだろう。
人間が見ることのできる光を可視光と呼ぶが、可視光は波長がおよそ380nm~780nmの電磁波で、波長の短い順に紫、青、水色、緑、黄、橙、赤となる。可視光は太陽のほか照明器具からも発せられるが、ここで重要なのは水分子が波長の長い赤色光領域を僅かながら吸収する性質があることである。この性質により梓川に入射した太陽光は赤色光の補色である青緑色光領域が散乱・拡散されて私たちの目に届くことになる。これが梓川が青く見える理由の一つである。プールの水が青く見えるのもこの原理によるし、無色透明と思われがちな純水もじつは僅かに青みを帯びている。
梓川が青く見えるもう一つの理由は川底の色である。白色は可視光をほぼ100%反射する時の色なので、川底が白いほど水底に届いた青緑色光がよく反射され、さらに水がより青く見えることになる。梓川を観察すると川底が白っぽい場所が多く、そうした場所ほど水が青みを帯びている。たとえば明神の梓川左岸では花崗岩が細かく砕けてできた白い土砂が梓川の岸辺に流入しているが、そうした場所では川底は白味が強く、ほかの場所より水が青みを帯びた流れとなるわけだ。もちろん、よく晴れた日の空の青色の水面での反射も、ある程度は梓川の水の青さに寄与しているだろう。
この原理からすると、プールの水をより青く見せるためには底面を白く塗ればいいことになる。実際、都会のちょっとおしゃれなホテルのプールの壁や底はほとんどが白く塗られていることに気づくだろう。
徳沢付近の梓川の流れ |
© 昆野安彦 山の博物記