上高地のサクラ類

私たちが春のお花見で楽しむソメイヨシノは栽培品種だが、日本の山野には野生のサクラも自生している。上高地で見ることのできる野生種は、ミヤマザクラ、ウワミズザクラ、シウリザクラ、ミネザクラの4種である。

ミヤマザクラは花の径が2cmほどでソメイヨシノの半分ほどの大きさ。花は小さいが、その純白の花がまとまって枝先に咲く様子は上高地にふさわしい清楚なものがある。花期はサクラとしては遅く、6月頃に咲く。自然研究路沿いに点在するが、小梨平ではキャンプ場の中に、よく花をつける樹が数本ある。

ウワミズザクラとシウリザクラはブラシ状の白い花穂をつける点で前種と識別できる。両種の花はよく似ているが、花期は少し異なり、ウワミズザクラが6月上旬、シウリザクラが6月下旬ころである。もっとも確実な識別点は葉で、シウリザクラの葉は基部がハート形にくびれて蜜腺が葉柄の上部にあるが、ウワミズザクラの葉は基部がくびれず、蜜腺も葉身の基部にある。また、葉の大きさはシウリザクラの方が大きい。

ミネザクラは別名タカネザクラ。山地性で日本でもっとも標高の高い所に咲くサクラとして知られ、亜高山帯の岳沢では標高2200m付近にも自生している。標高が高い場所ほど花期が遅く、岳沢では6月頃に花が見られる。花の径は2cm程度とソメイヨシノの半分ほどだが、白色~淡い赤色の花弁と臙脂色の萼筒の対比が美しく、高山に咲く高嶺の花と呼ぶにふさわしい可憐さだ。

なお、サクラ類の多くは葉に蜜腺と呼ばれる部位があり、分類上の目印になっている。上高地のサクラにもすべて蜜腺がある。この蜜腺の役割については、甘い蜜でアリを葉まで誘い、葉を食べる虫もついでに捕食してもらおうという戦略が考えられている。

上高地のサクラ類
美しいミヤマザクラの花(上高地)

                                                                                    © 昆野安彦 山の博物記