上高地のヤナギ類

ヤナギ科は水辺を自生適地にする種が多いので、梓川や田代湿原のある上高地にはヤナギ科植物が数多く見られる。上高地の主なヤナギ科は、ケショウヤナギ、オオバヤナギ、エゾヤナギ、オノエヤナギ、エゾノキヌヤナギ、イヌコリヤナギ、ドロノキの7種である。

ケショウヤナギは上高地を代表する樹種。河童橋から穂高を見る時に対岸の河原を緑色に染める樹冠がこんもりした樹がケショウヤナギである。幹や枝が化粧をほどこしたような美しさから「化粧柳」の名前が付けられた。他のヤナギ科と比べると葉が長さ6cmほどと小さく、慣れればそれだけで他と区別できる。上高地の他のヤナギ科が虫媒花なのに対し、本種は風媒花である。

オオバヤナギはその名の通り葉が大きく、長さ10~20cm、幅が3~6cmと幅広の長楕円形である。また、葉柄の基部に扇形の托葉があるので他のヤナギ科とは区別できる。

エゾヤナギは托葉がある点でオオバヤナギに似るが、葉が長さ8~12cm、幅が1.5 ~3cmとオオバヤナギよりも小さく、またやや細身の点で区別できる。

オノエヤナギは平地でも見られる普通種で、上高地にも多く見られる。葉は上記の3種とは異なる細い線形で、長さ10~15cm、幅1~2cmほどである。新葉の縁が裏側に巻き気味になる特徴があり、慣れれば葉を見ただけで識別できる。河童橋周辺に自生するエゾノキヌヤナギはオノエヤナギに葉の形が似るが、葉裏に絹のように見える白い毛が密生する点で識別できる。

イヌコリヤナギは低木で多くは高さ2mほど。上記の5種の葉の付き方が互生なのに対し本種は対生で、この点だけで他と識別できる。名前は朝鮮半島原産のコリヤナギに似て役に立たないという意味でイヌが付けられているが、繁殖力が強いので護岸用に植栽されるなどの用途がある。

ドロノキはヤナギ科ヤマナラシ亜科。上記の6種の冬芽の芽鱗がすべて1個なのに対し、本種は数個あり、この点が異なる。葉は長さ6~15cmの卵形で、ヤナギ科らしくないその丸みを帯びた葉の形で他と識別できる。なお、高山蝶のオオイチモンジの♀は本種に産卵する。

上高地ではそのほか、ケショウヤナギとオオバヤナギの雑種も見つかっている。上高地のヤナギ科の識別は慣れた人でも難しいので、よく分からない場合は写真を撮って図鑑などで調べると良いだろう。 

エゾノキヌヤナギ(上高地)

                                                                                    © 昆野安彦 山の博物記