大雪山の植生

大型の樹木が育たなくなる限界地帯を森林限界と呼び、これを境に上部を高山帯、下部を亜高山帯と呼ぶ。大雪山では概ね標高1700m付近に森林限界がある。

大雪山の高山帯では冬季の西からの季節風の影響が大きく、稜線西側にはあまり積雪のない風衝地環境が、また稜線東側には積雪の多い雪渓や雪田が広がり、同じ高山帯であっても稜線を境にまったく異なる植生環境となることが珍しくない。この典型的な例は黒岳山頂付近でも見ることができる。以下、大雪山の環境別の植生について解説する。

風衝地植生 風衝地の植物の特徴は木本も草本も背丈が低く、風衝地に這うように生えていることである。木本ではイワウメ、ミネズオウ、コケモモ、クロマメノキ、チングルマなど、草本ではエゾタカネスミレ、タカネオミナエシ、イワブクロ、エゾイワツメクサ、ミヤマキンバイ、キバナシオガマ、エゾハハコヨモギなどである。

雪田帯植生 雪渓や雪田では雪解けが遅く、夏になっても豊富な残雪がある場合があることから、雪解け後の芽吹きから開花までの日数が短い種が適応できることになる。代表的な植物はエゾコザクラ、エゾノツガザクラ、チシマクモマグサ、ハクサンボウフウなどだが、エゾコザクラの場合は芽吹きから開花まで僅か8日ほどと短い。

高茎草本群落 高茎草本植物(高さ50㌢~1㍍程度)は積雪は多いが比較的早く雪が消える、土壌の発達した場所に群生する。とくに稜線東側のなだれ地やハイマツ帯の風下側など、風の影響の受けにくい場所にまとまって生える。代表種はチシマノキンバイソウ,ミヤマキンポウゲ,エゾノハクサンイチゲなどの高茎草本だが、ウコンウツギ,ウラジロナナカマド,チシマヒョウタンボクなどの落葉小低木も混生することがある。大雪山でもっともポピュラーな高茎草本群落帯は黒岳9合目付近のものである。

湿原植生 大雪山の高山帯にはサーモカルストによる湿原や雪解け水による湿原も広がり、湿地に適応した植物も見られる。ワタスゲ、エゾゼンテイカ、イワイチョウ、ミツガシワ、ナガバノモウセンゴケ、チシマミクリなどである。

ハイマツ帯植生 ハイマツは主に風衝地や岩塊斜面に見られ、遅くまで雪の残る雪田地帯や積雪の多い稜線東側斜面では雪の影響であまり見ることができない。このハイマツが繁茂する林縁部では日陰環境ができるので、日陰に適応した高山植物を見ることができる。コウメバチソウ、ゴゼンタチバナ、リンネソウ、エゾイチゲ、ミツバオウレン、コガネイチゴなどだ。これらの花々は大雪山の他の環境ではあまり見られないので、ハイマツ帯を通る時には注意されると良いだろう。

大雪山の植生
雪解け跡地に咲くエゾコザクラの群落

                                                                                   © 昆野安彦 山の博物記