カラフトルリシジミは北極を取り巻くように生息する環周極種で、アラスカ、シベリア、ラップランドなどに分布する。またその名が示すように、樺太(サハリン)にも分布する。我が国では北海道に生息し、大雪山以外では知床、日高山脈、斜里岳、天塩岳などに分布する。
幼虫はガンコウラン科のガンコウランやツツジ科のクロマメノキの葉を食べる。夏に卵から孵化した幼虫は2~3齢で冬を越すが、越冬中の幼虫が発見されたことはない。越冬場所はガンコウランやクロマメノキの株元と考えられるが、落ち葉の中に紛れた小さな幼虫を見いだすことは困難だ。
5月頃越冬から目覚めた幼虫は5齢になるまで成長を続けた後、7月初旬に蛹化し、7月下旬頃に羽化する。つまり卵から成虫まで1年で足りるわけだ。本種の多い緑岳やコマクサ平ではハイマツ帯やガンコウラン群落を飛ぶ個体を目にする機会が多い。
カラフトルリシジミの幼虫は田淵行男によって知床山地で発見されていたが、大雪山高山帯の個体群の幼虫は未発見のままだった。私は長い間幼虫を探し求めてきたが、その牙城はきわめて堅牢で、数年の探索が徒労に終わっていた。
しかし努力はいつかは報われるものである。1996年6月20日、コマクサ平においてついに終齢幼虫を発見した。この発見により、大雪山の高山蝶で幼生期が未知の種はいなくなった。私と大雪山をめぐる長年の関わりの中でも忘れ得ぬ思い出での一つである。なお、大雪山高山帯の本種幼虫はガンコウランを食樹としていた。
© 昆野安彦 山の博物記