エゾシマリスは極東ロシア、サハリン、中国北部などに分布するシベリアシマリスの1亜種で、我が国では北海道に生息している。体長は15cmほどで体重も100グラムほどしかない。大雪山では登山者のすぐ近くに現れることがあり、その可愛い姿で人気が高い。
エゾシマリスはヒグマと同じように冬眠をして冬を過ごすが、エゾシマリスの冬眠の仕方はヒグマとは少し異なる。それは植物の実などの食料を越冬用の地下の巣穴に貯え、冬の間もときおり目を覚ましては秋に蓄えた植物の実を食べるからだ。
エゾシマリスのメスは冬眠から目覚めるとオスと交尾し地下巣で出産する。仔リスは一か月ほどで巣の外に現れるようになるが、その後も親リスによる子育ては続き、最終的に仔リスが親元を離れて巣立ちするのは夏の終わり頃である。
秋になると冬眠に備えて食料を集める。エゾシマリスは頬袋の中に食料を集めて巣に運ぶため、顔の大きさが2倍ほどにも膨れあがることがある。
大雪山でナキウサギを観察していると、同じ場所でしばしばエゾシマリスに出会う。たとえば緑岳だ。両種とも植物食が中心なので、餌をめぐる競争があるように思えるが、実際はエゾシマリスは主に種子や実を食べるのに対し、ナキウサギは主に葉と茎を食べるので、案外、両種間に食餌植物をめぐる競争はないのではと思う。ただし、お互いによく見かける相手だろうから、相手をどう思っているのかは想像の域を出ない。
旧白雲岳避難小屋では小屋の中によくエゾシマリスが現れた。登山者が大勢いる時は出てこないが、登山者が出払った日中になると、とことこと床の上を走りまわる可愛い姿が観察された。旧小屋の中と外は小さな穴でつながっているらしく、エゾシマリスは小屋の中も「巣穴」に使っていたのである。登山者の食事の残りかすなどを集めていたが、外敵がいない小屋の中はエゾシマリスにとってはとても安全な場所だったに違いない。
旧小屋は2020年に新しい小屋に改築されたが、この新しい小屋は外とは完全に遮断されているので、今のところ、小屋の中でエゾシマリスを見たことはない。
© 昆野安彦 山の博物記